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	書評

	『フランス装とブックオフと谷川俊太郎』
	枡野浩一(歌人)

 フランス装という装丁がある。日本では独自の進化を遂げてしまい、お洒落なデザインのひとつみたいな扱いになっているが、本来は愛書家が自分用に装丁し直すための仮製本。アンカットと呼ばれることもある。買った時点ではページがバラバラになっていないため、ペーパーナイフで切りながら読み進んでいく。

 筆者はブックオフが嫌いだ。昔ながらの古本屋にはもう少し奥ゆかしさがあったと思う。真新しい本がブックオフでは、ほんの少し値引きされた状態で売られる。希少価値のある古本が高値になっているのなら、まだわかる。傷みの目立つ古本が半額になっているのも、まあわかる。しかし新刊として発売されたばかりの、へたをすると発売前に宣伝のために無料進呈されたばかりの本が、新品のような顔をして棚に並んでいる。法的にはとくに問題はないのかもしれないが、大手出版社がブックオフの株主になっているという事実を知るだけでも、きな臭いものを感じてしまう。

 ブックオフで買われた本は、またブックオフに売られる。一冊の本が何度回転しても著者には一銭も入らない(くりかえすが大手出版社はブックオフの株主)。バーコードが付いているのだし、一冊の本が何度回転したかを確認して著作権者に利益を渡すことも物理的には可能なはずだが、一向にそうならない。

 筆者には十万部近く売れたヒット作が一冊だけあり、その一冊は今ではブックオフでしか売っていない。ブックオフにはものすごく売っている。増刷は何年もかかっていないが、読んだという感想は毎日のように目撃する。

 いやだ、いやだ。ほんとうに、いやなんだ。

 ということを日々ずっと考えていて、本の書き手として今後どうするかを考えたとき、「本来のフランス装のような、買った人が手をいれて初めて完成し、その人だけの本になるような、可塑性のある本」をつくることが、ひとつの解決策なのではという結論に至った。

 前置きがとても長くなりましたが、システム手帳のリフィルを利用した詩集を手にとって、「ああ。こういうことが、本来のフランス装に近い」と気づき、感銘を受けたのです。

 詩を持ち歩こう

 というキャッチフレーズが印刷されている。筆者のような「ブックオフへの対抗手段」として構想された企画でないことは明らかだ。けれど、リフィルに印刷された詩を好きな順番に並べ替えたり、気にいった詩だけをピックアップしたり、切手を貼って定形外ポストカードとして郵送できたりする本は、「本来のフランス装のような、買った人が手をいれて初めて完成し、その人だけの本になるような、可塑性のある本」そのものではないか。

 谷川俊太郎は最も名前を知られている日本の詩人で、だからこそこの商品が成り立つのかもしれない。まったくの無名の詩人が似たものを手作りして井の頭公園で売ったら。話題にはなるかもしれないが、商品というよりは、アート作品だ。アート作品でありながら、同時に商品であるものに、あこがれてやまない。

 谷川俊太郎の詩が、そういうものだからだ。

 平明な日本語で書かれているから、一読して意味がわかることも多いけれども、谷川俊太郎に言われるまでは、そのような世界の捉え方があるとは気づけなかった、という詩。

いやだ と言っていいですか
本当にからだの底からいやなことを
我慢しなくていいですか
我がままだと思わなくていいですか

親にも先生にも頼らずに
友だちにも相談せずに
ひとりでいやだと言うのには勇気がいる
でもごまかしたくない
いやでないふりをするのはいやなんです

(「子どもたちの遺言」収録『いや』冒頭部/リフィル『宇宙』より)

 ブックオフがいやだなどという、せこくてかっこわるい文章を、大好きな谷川俊太郎を語るとき書いていいのかと迷いに迷ったけれども、この詩に勇気づけられて書きました。

 この詩が大人の目線で、

 いやだ と言っていいですよ
 本当にからだの底からいやなことを
 我慢しなくていいですよ
 我がままだと思わなくていいですよ

 という語り口で書かれていたら不快でした。子どもが語るからいいのです。「そうだ。いやだと言ってもいいのかもしれない」という、盲点になっていた部分を指差されるのです。

 谷川俊太郎の詩を本以外の場でたまたま目撃して面白くないと感じたことが一度もない。そんな詩人だから、この企画が屹立する。軽やかな一冊の、その重さを受けとめたい。

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